「屋根裏の散歩者」(江戸川乱歩)

現代に通じているように思えて仕方ない

「屋根裏の散歩者」(江戸川乱歩)
(「江戸川乱歩傑作選」)新潮文庫

酒や女も含め、
この世のすべてに興味を持てず、
退屈な日々を送っていた郷田三郎。
彼は引っ越した新築の下宿の
押し入れの天井板が外れ、
屋根裏に通じていることに、
偶然にも気付く。
その日から彼の
「屋根裏の散歩」が始まるが…。

二十人もの下宿人の私生活を
密かに天井裏から覗き見て
快楽を感じる。
悪趣味以外の何ものでもありません。
いや、現代であれば立派な犯罪です。

それだけで終わっていれば
まだ良かったのですが、
彼はある男の部屋の
天井板にある節を取り外し、
その節穴の真下に、
寝ている男の口が位置していることを
知るのです。
そこから毒薬を男の口に垂らせば、
疑われることなく
人を殺すことができる。
そこから彼の完全犯罪の
実行が始まるのです。

大正14年発表の作品であり、
現代の機密性の高いマンションなどでは
考えられない設定です。
過去の遺物のような作品と
思われがちですが、
私には以下の点で
現代に通じているように思えて
仕方ありません。

本作品と現代との接点①
この世のすべてに
興味を持てない人間の存在

主人公・郷田のように、
この世のすべてに興味を持てずに
働きもしない、
社会に溶け込もうともしない人間は、
今や数多く存在します。
大正14年段階で奇異な人物像は、
現代ではごく普通に
なってしまっています。
(もっもとそうした人たちが
犯罪に結びつくわけではありません。
誤解なきよう。)

本作品と現代との接点②
いつどこで覗き見られているか
わからない恐怖

さすがに肉眼で覗き見られることは
考えにくいでしょう。
でも、ネットを通して
私たちのプライベートな情報が
いつどこで覗き見られているか
わかりません。
すでに私たちの住居の外観などは
グーグルで簡単に見られる状態です。

本作品と現代との接点③
気づかないうちに
葬られる可能性のある恐怖

さらにネット上で
自分の気付かないうちに、
自分にとって不利な情報(それが
真実であれデマ情報であれ)が流され、
社会的に抹殺される
可能性があることは否定できません。
事実、犯罪等が起きたとき、
その親類であるという情報が流され、
社会的地位や職業を奪われた方々は
少なからず存在します。

こう考えると、
現代では屋根裏ならぬ
「ネット上の散歩者」に
警戒しなければならない
時代なのかも知れません。
その「散歩者」は本作品のように
「一人」ではなく、
「不特定多数」であったり、
「強大な権力」であったりする可能性が
高いのですが。

若き日の名探偵・明智小五郎が
解決する本作品、
現代に引き寄せて読んでみるのは
いかがでしょうか。

(2019.6.23)

FineGraphicsさんによる写真ACからの写真

【青空文庫】
「屋根裏の散歩者」(江戸川乱歩)

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